キカクpresupposition 現実逃避 rape disfunctional fantasy



今まで夕飯どきにめったに家にいなかった父は、毎日その時間だけ帰るようになった。テーブルには葵の好物が並ぶ。ハンバーグやオムレツや、餃子や茶碗蒸しや、鮪の刺身やグラタンが、取り合わせを無視して何品も。いつもついていたテレビは消えていて、父と母が即興劇のようにやかましく会話する。いつも決まって「たのしい」話題だった。食欲はまったくなかったが、食べないと即興劇はエスカレートして延々と続く。葵は無理にでも箸を口に運び続けた。

対岸の彼女角田光代 2004